大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

静岡地方裁判所 昭和28年(行)4号 判決

原告 米倉八溥

被告 静岡県知事

主文

被告が静岡県浜名郡三方原村九百六十八番地の二千六百八十三畑三反の内南部七畝一歩に対し、昭和二十七年十一月二十八日付売渡通知書の交付によりなした売渡処分の無効確認を求める請求を棄却する。

本件訴の内原告のその余の請求に関する部分を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、静岡県浜名郡三方原村九百六十八番地の二千六百八十三畑三反の内南部七畝一歩に対する昭和二十七年十一月二十八日付売渡通知書の交付による売渡処分の無効を確認する、仮りに右請求が理由のない時は、右売渡処分を取消す旨の判決を求め、その請求の原因として、被告は本件土地について、売渡時期を昭和二十七年十月十五日とする昭和二十七年十一月二十八日付売渡通知書を同年十二月二日訴外江間仁三郎に交付して農地法第三十六条第一項第三号による売渡処分をしたので原告は同月二十二日右について農林大臣に訴願を提起したが、三ケ月を経過しても裁決がない。然しながら、右売渡処分には次の(一)(二)の違法事由があり、これは無効原因であり、仮りにそうでないとしても取消原因であり、もしこれらが理由がないとしても(三)の取消原因がある。

(一)  農地法は、昭和二十七年十月二十一日施行せられたので、その施行前である同月十五日を売渡時期とする農地法に基く右売渡処分は違法である。

(二)  本件土地については、自作農創設特別措置法により、昭和二十七年九月十五日又は同年十月十五日を売渡時期とする同年九月十五日付売渡令書が、農地法施行期日以前に訴外江間仁三郎に交付せられているので右自作農創設特別措置法によつてなしたる売渡処分を取消すことなしに前記同一人に対してなされた本件農地法第三十九条による売渡処分は農地法第三十六条第一項所定の法定要件を欠いていて違法である。

(三)  本件土地は、元静岡大学の教育学部の実習地で、文部大臣所管の国有農地であり、後に農林大臣に所管換となつたものである。被告は本件土地を小作地に該当しないとして、農地法第三十六条第一項第三号により、江間仁三郎に売渡した。然しながら、原告は正当な権原は有しないが、昭和二十四年十月、事実上の管理に当つていた右教育学部雇佐藤彌一郎の依頼を受け、爾来平穏公然に耕作している者であり、これは農地法第六条第五項の趣旨から、同法上も小作地と同一に取扱うべきで、原告は、昭和二十七年十月二十一日右土地に対する買受申込をしたので、被告は同法第三十六条第一項第一号により、原告に売渡すべきである。

と述べた。(立証省略)

被告指定代理人は、原告の本件訴の内無効確認を求める請求を棄却する、その余の訴を却下する、訴訟費用は原告の負担とする旨の判決を求め、答弁として、原告主張事実中、本件土地が元国有農地であつたこと、原告主張のような経緯によりその主張のように訴外江間仁三郎に売渡処分のなされたこと、右売渡通知書に記載された売渡時期が農地法の施行期日以前の昭和二十七年十月十五日であること、右売渡土地につき、原告よりも買受申込のあつたことはいずれも認めるが、その余の事実は否認する。本件売渡農地について国有の期間を短縮するために売渡の時期を農地法施行前としたものであり、また斯様になしても、これにより権利を侵害されるものはないから、単に通知書の売渡期日が同法施行前であることだけでは無効又は取消原因とならない。なお原告は訴願を提起していないので取消を求める予備的請求は不適法であると述べた。(立証省略)

理由

被告が、本件土地について、農地法第三十六条第一項第三号により、売渡の相手方を江間仁三郎、売渡期日を昭和二十七年十月十五日とする同年十一月二十八日付売渡通知書を、同年十二月二日右江間に交付して売渡処分をなしたことは、当事者間に争いがない。

無効確認の請求について、

原告主張の(一)について。

本件農地の売渡通知書に記載された売渡の期日が農地法施行の日以前であることは所論のとおりであるけれども売渡処分の効力は売渡通知書の交付のときに生ずるのであるから、右交付の時期が農地法施行の后である限り売渡の期日如何は何等その効力に影響を及ぼさないものというべく、而して本件交付の時期が農地法施行期日后であることは前記のとおり当事者間に争ないところであるから原告のこの点に関する主張は理由ないものといわなければならない。

原告主張の(二)について。

成立に争いのない甲第一第三号証第七号証の二によると、原告の主張に添うような記載があるが、これらの証拠と成立に争いのない乙第九号証の一、二その他弁論の全趣旨とを綜合すれば、被告が農地法に基く本件売渡処分の登記嘱託をなすに当り、誤つて自作農創設特別措置法による登記嘱託をなしたものにすぎないことが認められ他に右認定を覆して本件農地につき二重に売渡処分のなされたことを確知するに足るものがないから原告のこの点に関する主張も理由がない。

取消の請求について。

証人内山満寿良の証言中訴願の提起に関する部分は、証人高橋信の証言と対比すると措信し難く他に原告において本件売渡処分に対し所定期間内に訴願を提起したことを確知するに足るものがないから、結局訴願前置の要件を欠くものというべく従つて右主張の当否について判断するまでもなく取消を求むる部分は不適法といわざるを得ない。

このように原告の本件訴の中、無効確認を求める請求は理由がないので棄却すべきものであり、取消を求める部分は却下されるべきものであるから、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 戸塚敬造 田嶋重徳 土肥原光圀)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例